常朝(葉隠の著者)は特別な日のために力を温存してはいけないと説く。
人はよく「いざという時こそ本気を出す」と考えるが、いざという時など人生には存在しない。決定的な瞬間はいつも予告なく訪れる。
今日の一瞬こそが「いざ」であり、今日やらない者が未来の決断の場で力を出すことはない。
覚悟とは大声で叫ぶような力ではなく、静かに日々を整える姿勢に宿る。
決断を先延ばしにするほど心には雑念が増える。できない理由、避けたい気持ち、恐れ、周囲の評価、それらが雪のように積もり動けなくなる。
決断とは正しい未来を選ぶことではなく、未来を前に進める行為なのだ
才能は「積み上げる」ものだが、人間力は「削り落とす」ことで洗練される。余計な自己顕示を削り、怒りや焦りを削り、自分の弱さを認め、相手の立場に立つ柔らかさを育てていく。
川をわたるとき、深い場所を知らずに飛び込めば、どれほど泳ぎが達者でも沈む。つまり、自分の技術に自信がある者ほど状況を軽視し、場の危険を見落とす。
人はなぜ、誤った選択をしてしまうのか。葉隠はその根底にいつも「焦り」があると見抜いている。焦りは外からは見えないが、内側で静かに人を蝕む。
人間の成熟は時間を必要とする。焦りとは時間を短く切りすぎることで生まれる錯覚なのだ。
十年先、二十年先の自分を見据えていれば、今の評価に一喜一憂することも、他人と比較して心を乱すことも減っていく。焦りとは「短期で勝とう」とする心の不自然さが生む影である。
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