2020年12月27日日曜日

文献紹介:Direct evaluation of the sp3 content in diamond-like-carbon films by XPS

題名:Direct evaluation of the sp3 content in diamond-like-carbon films by XPS

著者:P. Merel, et. al.,

DOI:doi.org/10.1016/S0169-4332(98)00319-5

論文採択日:1998. 5. 23

概要:異なるレーザー強度を使って作成したPLDのDLC膜に対してXPS C1sピークを測定した。そのC1sピークを284.4eVと285.2eVの結合エネルギーを有するsp2ピークとsp3ピークに分離して、膜中のsp3炭素濃度について評価した。レーザー強度を0.9×108から7.1×108 W/cm2に変化させるとsp3炭素濃度が33%から60%にまで増加した。これらXPSの変化と比較するためにC-KLL励起を使ってX線励起オージエ分光(XEAS)を測定したところ、両者は異なるレーザー強度に対するsp3濃度変化に対して定性的に同様の変化を示した。XPSの方がsp3濃度が高い傾向を示すが、これらの違いは角度分解光電子分光の結果から示されている通り、表面にsp2炭素が多く存在することが原因である。XPS炭素1sピークの分析は水素化されていないDLC薄膜におけるsp3成分の評価に対して単純で直接的な手法であることが示された。


・実験条件

成膜装置:KrFレーザーによるPLD。熱分解グラファイトターゲット(純度 99.999%)。入射角45°、基板距離4cm

成膜基板:1インチのSi(100)基板。チャンバー内において300℃で15分加熱してから冷却後成膜。膜厚300nm。

分析装置:VG ESCALAB 220i。単色化Al-Kα光源(hν = 1486.6 eV)。パスエネルギーは20eV(XPS)、100eV(XAES C-KLL)。分解能は0.6eV(Ag 3dピークから計算)。表面の酸素は3%以下、水素は1%以下(ERDで測定)


図1:XPS C1sピーク。参照用にPECVDダイヤモンドとグラファイトターゲットのデータも加えてある。レーザーの出力が増えるとsp3成分が増加している。尚、一般的なXPSデータとは異なって、この図では左から右に結合エネルギーが深くなっている。DLCにおけるC1sピークの全値半幅は1.6eVとグラファイト(0.6eV)、ダイヤモンド(1.0eV)より広くなっており、ピークが2成分から成っていることを示している。


図2:C1sピークの分離。ピークの表現についてはガウシアンとローレンチャンを使い、バックグラウンドにはシャーリー型を使った。フィッティングの結果 sp2ピークは284.4±0.1eV(FWHM=1.00±0.05eV)、sp3ピークは285.2±0.1eV(FWHM=1.10±0.05eV)となった。加えて、表面の残留酸素に依存するC-Oピークを286.5eVに追加した。


図3:Fig.2の方法で割り出したsp3炭素の濃度をレーザー強度を横軸にとってグラフにした。レーザー強度が上がるにつれ、sp3炭素は33%から60%弱にまで増加した。

 

図4:XAESにおけるC-KLLピークを1階微分したもの。sp3炭素の濃度はダイヤモンド(sp3-C 100%)とグラファイト(sp2-C 100%)のD値を使って補完した。


図5:XAESスペクトルから計算したsp3-C濃度。レーザー強度が上がるにつれてsp3-C濃度は25%から51%にまで増加しているが、XPSと比べてその値は10~15%低い。


図6:XPSとXAESの結果の比較。両者の違いは光電子の脱出深さから説明できる。XPS電子の運動エネルギーは1200eV、XAES電子の運動エネルギーは280eVとなり、そこから計算する脱出深さはそれぞれ、2nmと1nmとなり、XAESの方が脱出深さが浅い。


図7:角度分解光電子分光から測定したsp3-C濃度。検出角Θが大きいほど、表面敏感な測定結果となる。角度を大きくしていく(=表面敏感にしていく)と、sp3-C濃度が45%から37%に減少していることが分かる。

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